独立行政法人
家畜改良センター鳥取牧場

家畜改良の推進、優良な種畜や飼料作物種苗の生産・供給等を通じて、
我が国の畜産の発展と国民の豊かな食生活に貢献することを使命としています。

黒毛和種の飼養管理

はじめに
家畜改良センタ-鳥取牧場では黒毛和種牛の育種改良や調査試験を行っています。特に近年は繁殖牛の受胎率向上や子牛の発育向上のための飼養管理について調査しています。そこで、鳥取牧場で行った調査研究結果やこれまでの状況、あるいは飼養管理に関連する報告などに基づいて、このHP上で連載の形で少しずつ書きつづっていきたいと思います。
(なお、ここで述べることはあくまで著者個人の考えで鳥取牧場などを代表するものではありません)                                                                         


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家畜改良センタ-鳥取牧場 業務課 渡邉貴之

第1話 飼養管理の前に
飼養管理の前に必ずチェックして欲しい事が2つあります。1つ目は飲水施設と塩(鉱塩)です。「自由摂取」という言葉が示すとおり、いつでも飲みたい時に飲め、舐めたいときに舐めることができる事が重要です。これらは飼料からの摂取が難しく、しかも牛にまかせている部分ですので、「あるから大丈夫」と考えずに見直してみて下さい。後ほど説明する血液検査にも影響を与えることもあります。
rensai2の画像ウオーターカップは設置されているものの、水が少ない。
rensai3の画像鉱塩用のホルダーがあるのに鉱塩がない。
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2つ目は記録です。ある程度の期間牛を管理していると、繁殖性が良いときも悪いときもあると思います。特に良かった時期、どんな飼料をどのくらい食べさせていたかがわかれば、元の管理に戻すことが可能です。また、繁殖性が低下した場合には、以前と何が違ったのか調べることで、発生しやすい問題点を見つけることができます。
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飼料給与記録の例
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繁殖性の良い農家さんに行き、飼料のメニューをそのまま利用しようとしても、あまり良い結果が出ない場合があります。しかし、飼料計算や飼料の特性を把握すると、良い農家さんの飼料メニューの何がよいのか、「キモ」を見つけやすくなります。良い農家さんに見学に行くと、ついつい飼料添加物等の特殊な飼料に目を奪われがちですが、基本的なメニューが間違っていれば効果が発揮されないこともありますし、基本メニューがしっかりできていれば、飼料添加物等の効果が2倍3倍になる可能性もあります。

 飼養管理は料理人と同じですので、良い飼料も料理の仕方を間違えれば、悪い飼料になりますし、理想的ではない飼料でも、組み合わせによってはおいしい料理、つまり良い飼料になることもあります。次回は実際に飼料計算をしてみます。

家畜改良センタ-鳥取牧場 業務課 渡邉貴之

第2話 飼養管理の基本、飼料設計:日本飼養標準
黒毛和種繁殖牛に飼料を給与する場合、何を基準に給与すればよいのでしょうか?これについては日本飼養標準・肉用牛(2000)という本があります(以下、飼養標準とします)。この本は黒毛和種繁殖牛が どのくらい飼料を食べるのか、必要な養分量がどのくらいなのかが記載されています。
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全国にいる全ての繁殖牛が、この値通りの飼料設計でうまく飼えるわけではありません。当然、外気温や牛舎環境で牛が必要な養分量は変動しますし、繋ぎ飼いと群飼育でも異なってきます。しかし、この値を「ものさし」として利用することで、後述するボディコンディション(あるいは栄養度)をコントロールしやすくなります。また、 給与飼料のミスも洗い出しやすくなります。それでは実際に飼料計算をしてみます。

仮に体重450kgの黒毛和種繁殖成雌牛(以下黒毛繁殖牛とします)に、以下の飼料を1日あたり給与したときの充足率を算出してみます。
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となり、給与飼料の1日あたりTDN量は2.9kgとなります。450kgの黒毛繁殖牛の維持に必要な1日あたりのTDN量は3.02kgですので、TDN充足率は
2.9kg÷3.02kg×100=96.0%
となり、このメニューではTDNの充足率は96.0%だということがわかります。

同じように、CPについても計算すると
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となります。
450kgの黒毛繁殖牛の維持に必要な1日あたりのCP量は485gですので、CP充足率は
479g÷485g×100=98.8%
となり、このメニューではCPの充足率は98.8%です。

同様に乾物摂取量(DMI)の充足率は、
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となります。
450kgの黒毛繁殖牛の維持に必要な1日あたりのDM量は6.04kgですので、DMI充足率は
5.2kg÷6.04kg=86.1%
となり、このメニューではDMIの充足率は86.1%です。

つまり、この給与飼料ではDMIの充足率が飼養標準に比べてやや低い、ということになります。しかし、先ほど述べましたように、 牛舎環境や飼育方法により適正量は異なりますので、もしこのメニューでも繁殖成績(受胎率等)が高く安定し、栄養度やボディコンディションが一定に保たれていれば、このメニューも一つの答えとなります。

次回はボディコンディションについてご紹介致します。

家畜改良センタ-鳥取牧場 業務課 渡邉貴之

第3話 ボディコンディションスコア
ボディコンディションスコア(BCS)とは、黒毛和種でいわれる栄養度、つまり太り具合のことです。

詳しい原因はわかっていませんが、牛が太ると受胎性が低下したり、難産になりやすくなるといわれています。BCSは飼養管理がうまくいっているかどうかを判定する重要な指標の1つであり、道具や機械を必要とせず、しかも効果が大きいという利点があります。しかし、判定結果に個人差や大きなバラツキがあったり、再現性がなければ意味がないと言った点に注意しなくてはなりません。

当場では生産獣医療システム・乳牛編3に記載されている岡田らの方法に準じて実施しています。この方法は、ある程度目あわせをすれば再現性が高く、体重との相関も高いことがわかっています。また、当場ではBCSを調べる場合は基本的に3人で行い、スコアに1以上のズレが生じた場合は、その場で話し合って決めるようにしています。

BCSは繁殖性とも密接な関係があり、特に骨盤腔BCSは体重や繁殖性に影響を与えると考えています。
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ルーメンサイズとは牛左側の腰角と季肋骨の間にある窪みをスコア化したものです。この窪みは、放牧などで乾物摂取量の目安に使われています。

実際に乾物摂取量と相関をとってみると、有意な相関ではないもののある程度の目安にあることがわかりました。ただし、飼料摂取後時間の影響を受けるため、一定の時間に行うことが必要です(できれば満腹時)。また、飼料の消化性や運動量、外気温等の影響を受ける可能性もあると思われます。
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当場で実際に体重とBCSに関係がどの程度あるか調べたデータがあります。このデータは同じ牛について数ヶ月間体重とBCSを調べたデータです。BCSは体重を推測するものではありませんので、直接的に関係するわけではありませんが、それでも相関があるようです。
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BCSは体重の減少時には、体表BCSが低下し、その後骨盤腔BCSの低下と同時に、体重が減少するというパターンが多く見られます。そのため、体表BCSはエネルギー不足の初期、骨盤腔BCSは体重減少の有力な指標となります。

下のグラフはある個体のBCSと体重の変化を追ったものです。このように少ないデータ数でも骨盤腔BCSは体重との相関が高い場合をよく見かけます。
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下のグラフはBCSではないのですが、臀部の皮下脂肪厚を超音波診断装置で測定し、採胚成績及び胚移植受胎率との関係について調べたデータです。このデータは骨盤腔に脂肪が付くと子宮操作がしにくくなるだけでなく、過剰排卵処理の反応性も低下する可能性があることを示唆していると思います。当場ではBCSは5段階評価で2.5~3.0が概ね適性範囲と考えています。
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BCSは特に問題がないときは、あまり気にならない項目です。しかし、BCSのコントロールを失敗すると、長期間繁殖成績に悪影響を及ぼしたり、繁殖障害を引き起こしたりします。
BCSと前述した飼料計算のデータを併せてとっておくだけでも、多くの飼養管理のミスを洗い出せると思います。 

次回は飼料の特性についてご紹介致します。

家畜改良センタ-鳥取牧場 業務課 渡邉貴之

第4話 飼料の特性;良い飼料とは何か
黒毛和種は様々な飼養管理が存在するため、一口に飼料といっても様々な種類があります。大きく分けて粗飼料と配合飼料がありますが、粗飼料も草種や収穫時期により嗜好性や飼料分析値は変動しますし、それに伴い利用性は異なってくるため一概には言えません。しかし、どんな飼料にはどんな特徴があるのかを把握しておくと、飼養管理のミスを洗い出しやすくなりますし、この後に紹介する血液生化学検査(代謝プロファイルテスト;MPT)の結果が読みやすくなります。また、黒毛和種繁殖牛の場合、給与する飼料の主体は粗飼料ですので、今回は粗飼料を中心に、飼料についてご紹介します。

よい飼料とはどんな飼料でしょうか。黒毛和種繁殖牛の飼養管理の基本は「必要な栄養を過不足無く給与する」事です。これは牛に対して栄養を過不足無く供給するという意味だけでなく、ルーメン(第1胃)発酵を良好に保つことも意味しています。黒毛和種繁殖牛の場合、必要な栄養のほとんどをルーメンの発酵産物でまかなっていると言っても、決して言い過ぎではありません。ですから、飼料を給与することは、ルーメン微生物にエサを与え、増殖させ、その微生物や微生物の生産物を牛に利用してもらう事が前提になります。「飼料給与は間接的に牛に栄養を与える」ということを念頭に置いた飼養管理が重要です。また、繁殖牛の管理ですから、人工授精や受精卵移植による受胎性や、子牛生産性が良くなるような飼養管理が目標です。つまり、「必要な栄養を過不足無く牛に供給できる」事と「子牛の生産性が向上する」ための、材料になるものが良い飼料となります。そのため、良い飼料を考える場合はルーメンについて、イメージを作っておく必要があります。
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微生物を増殖させるときに考えなくてはならないのは、エネルギー源と環境です。ルーメン内微生物は大きく分けると繊維を分解する菌、デンプンを分解する菌、原虫(プロトゾア)が存在するため、これら微生物にエネルギーを供給すると共に、微生物が増殖してくれるよう環境を良好に保つ必要があります。

微生物が増殖するのに必要なエネルギー源は繊維とデンプン、必要な材料はアンモニアです。ですから、飼料成分としては総繊維としてNDF、デンプンとして非繊維性炭水化物(NFC)、アンモニアのもとになるCPが重要な項目になってきます。

微生物が増殖しやすい環境は微生物によって異なりますが、pHが中性~弱酸性といわれています。この環境を保つためにはNFCやCPのバランスが重要になります。ルーメン内微生物はNFCを分解して揮発性脂肪酸(VFA)を作ります。VFAは牛のエネルギー源なのですが、VFAはその名の通り「酸」ですので、これだけではルーメン内は酸性に傾いてしまいます。しかし、ルーメン内微生物はCPをアンモニアまで分解します。アンモニアはアルカリ性ですので、中和されて中性になります。
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つまりNFCとCPのバランスがルーメン内微生物のエネルギー源と環境を同時に調整する重要な要素となりますし、NDFは反芻を促したり、飼料をルーメンにとどめることで他の飼料のルーメンでの消化性を上げてくれる重要な項目となります。

黒毛和種繁殖牛の給与飼料において、NFCを多く含む飼料の代表はトウモロコシです。ですので、トウモロコシが多く含まれている配合飼料や、トウモロコシサイレージはNFC含量が高いと言えます。また、CPが高い飼料は、アルファルファ等、NDFが高い飼料は粗飼料やフスマ等です。しかし、イネ科牧草の中にはCPが非常に高い品種も存在しますし、施肥量や刈り取り時期、地域によっても、NFCやCP、NDF、その他の項目も大きく変動します。下の表はある年の鳥取牧場で収穫された牧草の飼料分析値(TDN、DCP)平均を乾物摂取量(DMI)100%に仮定して給与した場合、充足率がどの程度になるかを表にしたものです。繁殖牛の体重を450kgで想定すると、DMIは6.04kgになります(飼料計算方法は第2話をご参照下さい)。
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この場合、イタリアンライグラス1番草はCP充足率が50%程度しかなく、不足してしまいますが、スーダングラス、ローズグラス、混播牧草(オーチャード、トールフェスク主体)は全てDCPが100%以上となります。中にはDCP充足率が200%以上になる草もあります。DCPが高くなると、ルーメン内はアンモニアが多くなり、アルカリ性に傾きますから、pH中性付近を好む微生物にとっては住みよい環境にはなりません。微生物が住みよくなければ、増殖もうまくできませんので、必要な栄養素が供給されないことになります。飼料計算上は過剰給与になっているのですが、実際はルーメン発酵不良により、不足する栄養素が出てくる可能性があります。 当場では、高DCP(CP)の粗飼料を給与する場合は、トウモロコシ圧片またはトウモロコシサイレージを同時に給与して対応しています。高DCP(CP)粗飼料をそのまま給与すると胚移植や人工授精の受胎率が低下することが多いのですが、NFCをある程度含む飼料を給与しておくと、多少CPが高い粗飼料を給与しても受胎率の低下を抑えることができます。

次回も飼料のお話です。

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第5話 飼料の特性:良い飼料とは何か2
配合飼料が育成用、繁殖用、肥育用と用途が分かれて販売されているのと同様に、粗飼料についても、給与する対照を考慮して生産または購入する考え方もあります。
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上の図はTDN、CP、NDFの刈り取り時期における飼料分析値の変動と、給与対照牛を簡単にまとめたものです。例えば子牛の場合は発育しているわけですから、たくさん食べて栄養摂取量を増やして、大きくなってもらいたいと考えます。すると当然TDN,やCPが高く、DMIが高くなるようNDFが低い草が良い草となり、出穂期前後の草がよいということになります。また、成牛は必要なTDNやCPがそれほど多くないため、体を維持できる程度の品質でも十分になります。 

しかし、実際にはこれほど単純ではありません。例えば、飼料生産の視点から見ると、自給飼料の場合は刈り取り時期が早ければ早いほど収量は減ってしまいますし、天候等にも左右されてしまいます。
子牛に給与する粗飼料の場合、多少TDNやCPが低くても、嗜好性が良くDMIが高くなるのであれば、結果としてTDN、CP摂取量が多くなります。ですから、最終的にはTDNやCPの摂取量(充足率)が高く、発育がよいものが良い飼料となります。ですから、これについても、どのような粗飼料を給与したか記録しておくと、その後の参考になります。

黒毛和種繁殖牛の場合、妊娠末期や泌乳期には配合飼料の給与量を増やせばよいため、空腹ストレスがかからない程度に乾物摂取量があり、TDNやCPといった栄養が過不足無く供給できればよいことから、基礎飼料となる粗飼料はそれほど高消化性である必要も高栄養である必要もありません。このように記載すると「多少悪い粗飼料でもよいのか」と思われる方もいると思いますが、それは間違いです。「高栄養や高消化性」である必要はないのですが、品質が悪い粗飼料は、繁殖性を低下させます。二次発酵したサイレージはもちろんですが、土壌が混入したサイレージ等も同様です。これらのサイレージはうまく発酵していないため、アンモニアやその他毒素を含んでいる可能性があり、ルーメン内を攪乱する物質が含まれていると考えてください。また、品質が安定していないので、飼料設計と実際の摂取量との誤差が大きくなりやすく、予想できない結果をもたらすことがあります。当場でも、過去にこのような粗飼料を給与した結果、急激に胚移植の受胎率が低下した経験があります。この後、品質の良い飼料に切り替えたものの、約3週間~1ヶ月間は受胎性が回復しませんでした。余談ですが、飼料を良いものに切り替えて1ヶ月後からは、受胎率がほぼ100%近くになり、改めて飼料の「品質」の重要性を感じました。

粗飼料について、他にも注意しなければならない項目があります。それは硝酸態窒素です。ご存じの方も多いと思いますが、硝酸態窒素は多量に摂取した場合、硝酸塩中毒を起こし、死亡する場合があります。また、少量の場合は第1胃内でアンモニアとなり利用されますが、CPが高い飼料を給与していたりすると、予想以上にルーメン内アンモニア量が多くなり、結果、飼料設計とは異なる結果を招く場合もあります。

次回は黒毛和種繁殖牛の代謝プロファイルテストについてです。

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第6話 血液検査:代謝プロファイルテスト(黒毛和種繁殖牛のMPTの意義と実施方法)
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代謝プロファイルテスト(以下MPTとします)をご存じでしょうか。乳牛に携わっておられる方ならご存じかもしれません。代謝プロファイルテストとはPayneが提唱し、1960年代後半に始まった血液生化学検査を中心とした検査です。血液検査ですので人間の健康診断に似ていますが、健康診断の目的が潜在疾病の摘発であるのに対し、MPTの目的は主に給与飼料と生産物(乳牛なら牛乳)のバランスを評価します。ですからMPTの場合、健康な牛を対象に行うことが基本です。実際には牛群の1~2割について検査を行い、そのデータをもとに牛群全体の栄養状態を把握し、疾病発生の予防、生産性の向上をねらいます。
黒毛和種繁殖牛の場合、生産性向上とはすなわち子牛生産性です。人工授精や受精卵移植により受胎し、分娩-泌乳を滞りなく行えることが重要です。そのためには適切な飼養管理が重要となります(第1話)。適切な飼料を給与できているかを確認する方法は、牛の状態やBCS、飼料計算、糞の状態、さらに繁殖牛として受胎性の良否等です。これらの情報はとても重要なのですが、飼料設計上は充足されているはずの項目が、血液検査では予想より高くなっていたり、低くなっていたりする場合があります。また、当場では血液検査値のいくつかの項目が適正範囲内におさまっていないと、受胎率が低くなる傾向が見られています。ですので、受胎率が低下した時に給与飼料をどのように変更すべきか知る手がかりをMPTは教えてくれます。実際に当場でもMPTを指標とした飼養管理の改善を行い、受胎率や生産性の向上を図ってきました。試行錯誤はしたものの、結果、受胎率は向上傾向にあります。

MPTを活用するには前述したように、給与飼料の状況、繁殖成績、疾病発生状況、BCSのデータが重要です。これらのデータが無くてもMPTの実施は可能ですが、診断の精度を高めてくれます。せっかくコストをかけて行いますので、その効果が高まるデータ採取は重要です。

MPTを行う上でいくつかの注意事項があります。
1.分析機器と分析精度
MPTは血液の微妙な変化から診断し、飼料設計に反映させるため、検査値の誤りは逆に悪い方向に飼料設計してしまう可能性があります。検査を外部に依頼する場合は、事前に検査の実績等を問い合わせておくべきです。また、分析機器が異なれば、同じサンプルでも値が異なる場合があることも、注意しておく必要があります。
2.血液サンプルの取り扱い
採血方法や血液サンプルの取り扱い方を間違えると、値が大きく変動してしまいます。例えば採血時に牛が暴れてしまったり、長時間保定してストレスをかけてしまうと、いくつかの項目は数値がはね上がってしまいます。
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また、採血から遠心分離までの時間や保存方法、遠心分離後の保存方法や、分析までの日数等も検査結果に影響があるといわれています。当場では、自場に検査機器がないことから、外部 機関にお願いして分析してもらっています。検査項目の中にはサンプルを凍結すると誤差が大きくなると言われている項目もありますが、当場のデータでは、凍結後4日くらいで分析 できるようでしたら、診断は可能と考えています。

3.採血時間
血液の値は飼料摂取前後、あるいは飼料摂取後の時間経過によって変動します。当場で試験的に実施した結果、黒毛和種繁殖牛の場合は乳牛ほど大きな日内変動はしませんが、いくつかの項目はある程度変動しています。ですから、飼料摂取後何時間で採血するか決めておいた方がよいと思います。当場では飼料摂取後約4時間目に採血するようにしています。

4.検査項目
検査項目は依頼する検査機関等により異なりますし、項目が増えればコストが高くなる場合もあります。無意味に項目を増やしても混乱を招きますし、少なすぎると誤診を招く可能性があります。項目については一概に言えませんが次回は、当場の検査項目についてご紹介します。

5.血液検査値の適正範囲
血液検査をすれば、その値が適正範囲内かどうかが問題になります。しかし、前述したように分析機器が違えば値が異なる可能性もありますので、本に記載されている値をそのまま適正範囲としてしまうと、大きな間違いになりかねません。また、繁殖牛ですので、受胎性を無視し た適正範囲の設定はできません。通常、この設定は優良牛群の血液検査値±標準偏差を基本に設定されているようですが、当場では数年間、飼料充足率(TDN、DCP、CP、DMI)と血液検査、受胎率のデータをとってきていますので、受胎率が高かった時期の血液検査値を適正範囲として採用しています。

6.検査時期
MPTを実施する時期は暑い時期を避けるべきといわれています。暑熱ストレスを受けると、ルーメン内温度が上昇したり、特に乳牛ではDMIが低下したりするためです。地域によって暑さが異なるので、一概には言えませんが、せっかくコストを掛けて実施するので、ネガティブな要因のある時期は避けた方がよいと思います。

次回は代謝プロファイルテスト項目についてです。

家畜改良センタ-鳥取牧場 業務課 渡邉貴之

第7話 血液検査:代謝プロファイルテスト2(検査項目)
今回は代謝プロファイルテストの項目についてです。当場で実施しているMPTの主な項目をご紹介します。現在、当場で実施しているMPTは、基本的に乳牛で実施されている検査項目を用いています。ですから必ずしもこれらの項目が良いというわけではなく、また、これ以上必要ないと言うことではありません。なお、当場では外部機関に凍結した血漿を送付して分析しています。

遊離脂肪酸(FFA)
主に体脂肪の燃焼時に値が高くなります。エネルギー不足時には高くなります。ただし、慢性化すると下がりますので注意してください。

受胚牛は多少高くても大丈夫ですが、供胚牛は概ねこの値が高くなると正常胚率が下がる傾向があります。

血糖(Glu)
牛の場合、ルーメン由来のVFAが肝臓で糖新生されます。このため、ヒトと違いあまり大きな変動はなく、特に黒毛和種繁殖牛では日内変動もあまり大きくありません。つまり、 逆にいえばこの値が大きく変動した場合は、飼養管理が大きく失敗している可能性があります。

飼料中のNFCが高い場合は高くなりますので、配合飼料やトウモロコシ等の多給時には上がります。また、エネルギー不足の初期には上がりますが、そのままの管理を継続すると、その後は下がります。これは、FFAと組み合わせて診断します。

Gluは繁殖性と関係のある重要な項目です。ET受胎率、採胚成績ともに強い関係があります。高くても低くても飼養管理の改善が必要な項目です。

β-ヒドロキシ酪酸(BHB)
ケトン体の一つですので脂肪の燃焼が起こると高くなりますが、黒毛和種繁殖牛の場合は、主にルーメン内のVFA由来と考えており、ルーメン発酵の指標になります。飼料中のNFCが高ければ高くなる傾向がありますし、乾草主体で飼養管理をするとあまり高くなりません。また、飼料の急激な変更等ルーメン内微生物がダメージを受けると、値が低くなることがあります。

総コレステロール(T-cho)
油脂等の多給で上昇しますが、黒毛和種繁殖牛の場合、摂取飼料に油脂はあまり多く含まれていないため、基本的には肝機能由来と考えます。エネルギー充足の指標となり、DMIや摂取TDNともある程度相関があります。低い場合は、飼料のTDNやDMIを見直します。飼料設計と合わせて見て高い場合は、肝機能の低下が疑われます。高蛋白飼料を長期間給与したりBCSの変動が大きい場合、肝臓に負担がかかり、高くなる場合があります。

リン脂質(PL)
診断の意義は基本的にT-choと同じです。T-choとかなり高い相関があります。

アセト酢酸(ACAC)
BHBと同じケトン体です。エネルギー不足により値が高くなります。

アルブミン(Alb)
肝臓で合成されますので、肝機能が低下した場合はAlbの値は下がります。その他、長期の蛋白代謝を反映していますが、よほど極端な飼料設計ミスが長期間続かないと、大きく変動しません。逆に高くなる原因は飲水不足による脱水です。牛房の頭数に対して飲水施設が足りない等不十分な牛舎等では、特に冬季に上がりやすい傾向があります。

尿素窒素(BUN)
摂取CP(DCP)と正の相関があり、相関はかなり強いです。また、値が高低に大きく変動します。この値が高いときは繁殖性、特にET受胎率は低下します。しかし、低すぎても受胎率は低下します。黒毛和種繁殖牛にとっては、かなり重要な検査項目です。

アンモニア(NH3)
飼料中のCPの相対的な過剰の場合高くなる事があります。また、ルーメン内微生物、特にプロトゾアが少ない場合、安定せず高い値が出ることもあります。繁殖性と強い関係があると言われていますが、当場のデータではそれほど強い関係は出ませんでした。黒毛和種でも日内変動が大きく、不安定な物質と考えていますので、指標とする場合は飼料摂取後の時間を厳密にする必要があります。また、採血時には環境中(牛舎中)のアンモニアを拾わないように注意する必要があります。

乳酸(LA)
飼料中のNFCが過剰な場合、高くなる傾向があります。ただし、採血時に牛が暴れると高くなりますので、注意が必要です。

その他肝機能チェックのためにAST、GGTも検査しています。繁殖和牛ではあまり必要がないように感じますが、高CP飼料や高NFC飼料を長期間給与すると値が高くなりますし、牛のBCSが大きく変動すると高くなることがあります(ダイエット等)。

今回はあえて具体的な数値を明記していません。これは第6話でご紹介したとおり、分析機器が異なれば、同じサンプルでも値が異なる場合があるためです。MPTは正常値内での血液の変動を把握して診断しますので、その精度には注意が必要です。

また、基準値も子付き(泌乳期)と離乳後では異なります。例えば泌乳期には配合飼料を増飼しますので、CP摂取量が高くなりBUNも上がります。このBUNと離乳後のBUNを同じ基準で比べて値の高低を言うことはできません。そのステージにあった基準がありますので注意してください。

MPTは値と飼料設計から、現在だけでなく今後の生産性低下を推定する意味もあります。例えば飼料中のデンプンが過剰な場合、脂肪の燃焼が無くGluが多少高くても繁殖成績が良ければ問題はありませんが、その後、過肥傾向になる可能性がありますし、肝機能の低下を引き起こしやすくなります。これらは難産やその後の生産性の低下につながる可能性もあります。


黒毛和種繁殖牛の飼養管理のお話は今回が最後です。7回にわたり黒毛和種繁殖牛について、鳥取牧場で行った飼養管理改善の取り組み例を中心に話をすすめてきました。今後も飼養管理の改善に取り組んでいきたいと考えています。皆様のお役に立てそうな事例がありましたら、ご紹介したいと考えています。ここまでお付き合い頂いた方、ありがとうございました。

家畜改良センタ-鳥取牧場 業務課 渡邉貴之

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【参考文献】
・生産獣医療システム 乳牛編3、農文協.
・生産獣医療システム 肉牛編 、農文協.
・反芻動物の栄養生理学    、農文協.
・黒毛和種繁殖牛における飼料給与回数と代謝プロファイルテスト成績、

渡邉貴之・田中佑一・野口浩正・大福浩輝・小西一之・岡田啓司、
日本畜産学会第106回大会講演要旨.
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