【 3 】 繁殖に関する試験
3-a-1.繁殖に関する試験<1>
前回は牛の過剰排卵処理による受精卵の数や質には遺伝的要因がかなり影響するらしいということを示しました。
では過剰排卵処理による受精卵の数や質を飼養管理を変えることで向上させることはできないでしょうか。
一卵性双子を試験区と対照区に分け(3組使用)、試験区には脂肪酸カルシウム*というサプリメントを与え、対照区では与えないことにしました。
脂肪酸カルシウムを与える試験区の牛では血中のコレステロ-ル濃度が対照区の倍以上に上昇しますので、体内のエネルギ-バランスがかなり変わると考え、過剰排卵処理成績の向上を期待しました。
しかし、結果として過剰排卵処理成績は試験区も対照区もほとんど変わりませんでした(表3)(8)。
少なくとも脂肪酸カルシウムはサプリメントとして与えても個体が持つ過剰排卵処理に対する遺伝的な特性を変えられなかったことになります。
*脂肪酸カルシウム:
牛は人が栄養として利用できない草などを第一胃で微生物の助けを借りて消化吸収します。その一方、人が利用できる脂肪酸などエネルギ-価値の高い栄養分も、第一胃に入ると微生物に分解され期待したエネルギ-が得られません。そこで、カルシウムでコ-ティングし第一胃の微生物の作用を受けないようにして第4胃や腸で消化吸収できるようにした脂肪酸カルシウムなどのサプリメントが登場しています。
なお、この試験では個体を対象に単一のサプリメントを添加するだけのものでしたが、代謝プロファイルテストを取り入れて牛群全体を対象に総合的な栄養管理を行うことにより過剰排卵処理成績が改善できる場合があることが報告されています(9)。
(鳥取牧場業務課 小西一之)
黒毛和種の一卵性双子の話(11回目)
黄体数 | 回収卵数 | 正常胚数 | 優良胚数 | 正常胚率 (%) |
血中コレステロール濃度(mg/dl) | |||
試験開始前 | 胚回収日 (給与開始23日目) |
|||||||
対照区 | 例数 | 6 | 6 | 6 | 6 | 6 | 94.1 | 92.9 |
平均 | 20.7 | 14.0 | 10.5 | 5.5 | 75.2 | |||
標準偏差 | 6.3 | 4.2 | 4.2 | 3.6 | 20.4 | |||
試験区 | 例数 | 6 | 6 | 6 | 6 | 6 | 100.2 | 193.5 |
平均 | 23.3 | 13.3 | 10.2 | 7.8 | 75.8 | |||
標準偏差 | 13.7 | 6.7 | 5.9 | 5.0 | 25.0 |
試験区:脂肪酸カルシウム給与、対照区:無給与
双子3組の成績。双子各2頭は試験区と対照区を一度ずつ実施。
双子3組の成績。双子各2頭は試験区と対照区を一度ずつ実施。