飼料作物種子の増殖の方法
最終更新日 2023/09/22

熊本牧場(日本)ではどのように飼料作物の種子を増殖しているのか説明します。

採種ほ場の土作り
起土

 土壌の浅い部分と深い部分の土を反転させます。
 雑草を土中にすき込んだり、堆肥が土中によく混ざる効果があります。

砕土

起土した土を細かく砕きます。
土が細かくなることで、種子の発芽にとってよい条件となります。

整地

細かく砕いた土を平らにならします。

施肥

写真:ブロードキャスタで肥料を散布している様子

採種作物の生育に必要な肥料をほ場に散布します。
与える肥料分は一般的な野菜などの作物と同様にチッソ、リン、カリウムです。

播種

写真:イタリアンライグラスは採種ほ場に播種します。

写真:播種種子が少量の場合はテープに加工して播種します。

写真:ギニアグラスはセルトレイに播種します。

育苗

写真:ギニアグラスを育苗している様子

写真:飼料用イネを育苗している様子

定植

写真:ギニアグラスの定植の様子

ギニアグラスの苗を人の手で採種ほ場に植え付けます。

写真:飼料用イネの定植の様子

飼料用イネの苗を水田に植え付けます。
植え付けは食用稲で用いられる一般的な田植え機で行います。

栽培管理

栽培管理で重要なポイントは、採種ほ場の「外」と「中」の管理です。
イタリアンライグラス品種「ワセユタカ」の採種ほ場の管理を例にして説明します。

採種ほ場の「外」の管理

■「野生タイプ」の除去 
 「ワセユタカ」の採種ほ場の周囲には、「ワセユタカ」以外のイタリアンライグラスが自生している場合があります(以下、「野生タイプ」と表現します)。両者とも同じイタリアンライグラスなので、互いの花粉を受粉します。採種をする際に問題になるのが、「ワセユタカ」が「野生タイプ」の花粉を受粉して交雑してしまうことです。「野生タイプ」の花粉を受粉した「ワセユタカ」は、雑種になって「ワセユタカ」本来の性質が失われてしまいます。
 「ワセユタカ」本来の種子をとるためには、交雑の恐れのある採種ほ場の周囲の「野生タイプ」を除去し、雑種化を防ぐ必要があるのです。

写真:採種ほ場と水路
・水路や道路沿いに自生する「野生タイプ」を除去します。

採種ほ場の「中」の管理

■「ボランティア」の除去 
 「ボランティア」とは、過去に作付けしたイタリアンライグラスのこぼれ種が発芽したものです。
 イタリアンライグラスを栽培したほ場では、収穫したときに種子がこぼれてほ場に残ります。翌年以降に同じほ場で「ワセユタカ」を栽培するときに、ほ場に残っている過去のイタリアンライグラスのこぼれ種が発芽する場合があります。この発芽したイタリアンライグラスを「ボランティア」と呼んでいます。
 こぼれ種から発芽したボランティアのイタリアンライグラスは、世代が進んでいるもしくは過去に作付けした別の品種であることから、交雑してしまうため、この「ボランティア」は除去しなければなりません。

■「採種に有害な雑草」の除去
 「採種に有害な雑草」とは、繁殖力等が旺盛で利用する飼料生産に与える影響が大きい雑草や、採種するときに収穫機械にからみつく等により、収穫作業に影響のある雑草のことです。
 牧草種子の生産規定により除去することが定められているため、選択制の除草剤の使用や手作業により除去を実施します。

写真:「ボランティア」と「雑草」の除去(「ワセユタカ」採種ほ場)
・畝(筋状に作付けされている緑色の植物)が「ワセユタカ」です。
・畝間に存在する「ボランティア」や採種ほ場内の「雑草」を手作業で除去します

収穫

 採種対象の作物に適した収穫機械で収穫を行います。

イタリアンライグラス

イタリアンライグラスは専用の大型コンバインで収穫します。

ギニアグラス

ギニアグラスはシードキャッチャーで収穫します。
これは、車両の両脇に種子をすくいとる網を取り付けたものです。
ギニアグラスの穂から種子をたたき落としながらほ場内を走行し、種子を網の中に集めます。

飼料用イネ

飼料用イネはコンバインで収穫しています。
食用稲の収穫の際に用いられる一般的なコンバインです。

【収穫作業のポイント】
 収穫作業で最も大切なのは、異なる品種の種子が混ざらないようにすることです。たとえば、熊本牧場ではイタリアンライグラスであっても「きららワセ」、「ワセユタカ」など複数の品種の種子を増殖しています。これらが互いに混ざらないように、収穫前には収穫機械を念入りに清掃したり、複数の収穫機械を用意して品種が変わったら使い分けたりします。

乾燥

写真:コンテナに入った、収穫したばかりの種子

ほ場から収穫したばかりの種子は水分を多く含んでいます。たとえば、イタリアンライグラスでは収穫直後は50%前後の水分があります。

また、収穫時期は暑い時期である上に、収穫物が入るコンバインの中は熱がこもるため、収穫直後の収穫物は熱をもっています。

写真:コンテナ内の種子を送風乾燥させている様子

水分が多く熱をもった状態にしておくと、蒸れにより種子の発芽率が著しく低下してしまいます。

これを防ぐために、収穫した種子はすぐに人工的に送風乾燥させます。種子の水分が12%程度になるまで乾燥させます。

写真:種子の水分を測定できる水分計

送風乾燥中は定期的に水分計で種子の水分を測定します。

精選

写真:熊本牧場の精選ライン(精選機の集合設備)

精選とは、乾燥させた収穫物から不純物を取り除く工程です。不純物とは茎葉の破片、小石、雑草の種子などです。こういった不純物を取り除くため、様々な機能をもった機械を使って精選を行います。

精選機は原理によって以下のように分類できます。   
  粒径選別機 … 粒の大きさで選別
  比重選別機 … 比重(かさと重さの比)の差で選別
  形状選別機 … 「かたち」で選別
  色彩選別機 … 表面の色で選別
  風力選別機 … 風で吹き飛ばし(or吸って)選別
 特殊な選別機 … 表面のざらつき等で選別

熊本牧場で使用している精選機の例

写真:スクリーンセパレータ

スクリーンはふるい、セパレータは選別機という意味です。
風力と粒径で種子を選別します。

写真:シードブロアー

シードは種子、ブロアーは吹き飛ばすという意味です。
風力で種子を選別します。

写真:脱芒機

芒を取り除きます。芒とは種子に付着しているヒゲのような突起物です。