DNAマーカーを用いた飼料作物品種識別法の構築
最終更新日 2016/09/27

目的と背景

飼料作物種子の品種を識別する場合、一般にほ場における特性比較栽培試験が行われます。しかしながら、この試験では結果の判明に1年程度の期間がかかり、また多大な労力が必要です。そのため、長野支場では、それらの問題を解決すべく、DNAマーカーを用いた品種の識別法を構築するための研究を行っています。DNAマーカーを用いれば数週間で品種の識別が可能となります。
なお、この研究は、(一社)日本草地畜産種子協会飼料作物研究所との共同研究です。

(1)AFLPマーカーを用いたAMOVA法による品種識別法
飼料作物の中でも他殖性の牧草の多くは品種内の個体間に変異があるため、イネなどの自殖性作物のように1つの個体について品種を識別することは困難です。そこで、品種を変異を持った個体群からなる一つの集団と見なし、他の品種についての集団との間に出現頻度に大きな差があるAFLPマーカーを数個特定し、それらマーカーを品種識別に利用することにしました。その結果、長野支場はイタリアンライグラス5品種、ミナミアオバ・ニオウダチ・シワスアオバ・ワセアオバ・ワセユタカについて、集団間で出現頻度に大きな差があるAFLPマーカーを10種類特定し、AMOVA法を用いて下記のとおり品種を識別することが出来ました。
この識別法は2006年(平成18年)7月28日付けで特許を取得しました。

上記の表に示したように5品種とも他品種との間において0.1%水準で有意差を示しました。

<用語解説>
・AFLP(Amplified Fragment Length Polymorphism)
制限酵素を用いてDNAを切断し、その切断した部分に配列既知のアダプターを結合さ せて2段階のPCR増幅を行う。その増幅断片サイズの違いを電気泳動で多型として検出する方法。

・AMOVA(Analysis of Moleculer Variance)
分散分析の一種でDubreuil らが牧草類の品種識別を行う場合に考案したもの。マーカーの有無から求めた遺伝的距離を用いて集団内の分散と集団間 の分散を算出し、それら集団の識別性を有意差検定する。

・random permutation :
比較する集団Aと集団Bについて、各個体のマーカーハプロタイプ(半数体の遺伝子型)をAとB間でランダムに並べかえて2つの仮想集団を作成する処理のこと。


(2)SSRマーカーを用いた民間育成品種の品種識別
民間で育成されたイタリアンライグラス5品種について、他の品種とは出現頻度が大きく異なるSSRマーカー(PCR増幅断片)を18種類同定することが出来ました。 

<用語解説>
・SSR(Simple Sequence Repeats)
ゲノム中の2~6塩基の反復配列をPCRで増幅させ、その増幅断片サイズの違いを電気泳動で多型として検出する方法。

・多型
同じ生物種の集団のうちに遺伝子型の異なる個体が存在すること


(3)今後の予定
 今後、飼料作物研究所と共同で新たにペレニアルライグラスの品種について他品種とは出現頻度が大きく異なるSSRマーカーを探索します。

 ※ こちらのページも併せて御覧下さい。 → (一社)日本草地畜産種子協会ホームページ